夜釣りの磯で
わたしは沖縄が大好きで、よく夏には沖縄ツアーで本島を訪れます。
今日は、そのときに聞いた話をひとつ紹介します。
漁師に魚釣りを習う木の精の物語です。
・・・あるところに鮫どんという男がおりました。
強い鮫どんの肌は、するどい貝やきりたった岩のかどにひっかけても、傷つきません。
鮫どんは毎晩、妻女のつくってくれた夜食をもち、気に入った漁場にでかけて漁をしました。
鮫どんの漁場は、他の漁師に知られないよう秘密にしていたのですが、ある晩、近くに人の居る気配を感じました。
「誰かな」
つぶやいた鮫どんは、じいっと目を凝らしてそちらを見定めました。
すると向うの人影も、こちらに向いて、じいっと息を凝らしているふうです。
「そこにいるのは鮫どんですか」
といったのは、細く透き通ったきれいな男の声でした。
「あれ、こんな声は聞いたことがないぞ。うちの村では聞かない声だぞ」
鮫どんは、なんとなく背すじが冷たくなりました。
「お前、誰だ。鮫どんて、おれの名を知ってるのか」
大声で言い返しました。
その人影は、鮫どんよりもさらに身軽く、向うの岩からこちらの岩へ飛び渡ってやってきました。
近づいてきたのをみるとたいそう細くて小柄な、少年のようでもあり老人のようでもあるめずらしい顔かたちの人でした・・・。